「これは自分が目指すリスクマネジメントの最重要であり、ただやみくもに楽しむことは意味がない...」 印刷

◆受講生2

 

実技1@栂池自然園

 

 

前日の懇親会で日本酒を飲みすぎ、2日酔いのなかで迎えた実技。

初日から前夜を後悔しながら講習会を始めるなど、思ってもいなかったが、2度と同じ過ちを犯さないためにも日本酒はおかわりしないことを冒頭に書いておく。

 

初めてスキーの板にシールを張る。TLTのビンディングにブーツを装着する。WALKモードで進む。斜面を真っ直ぐ登る。ゲレンデでは経験したことのない、未知の領域へ踏み込んだ瞬間の何とも表現しがたい感覚で自然と顔がにやけてしまう。

 

スキーの装着もぎこちなく、時間もかかるし、シールの装着力も想像を超えるものであり、踵を浮かせて歩くことは機能的であり、滑るだけの板とはまるで違う。今までは斜面に平行に板を置いて登っていたが、シールのおかげでその必要がない。板にシールを貼ることを考えた人はすごいなどと思いながら、進む。

 

斜面を登ったところでビーコンをチェックする。ビーコンは国際基準で周波数の割り当てがなされており、メーカーを問わずどのビーコンに対しても、誰もが捜索可能なのだ。この仕組みを考えた人も天才だ。ビーコンの操作は電波発信のSEND、受信のSERCHと電源を切るOFFしかない。リーダーの一人がSEND、それ以外のメンバーがSERCHにして、電波受信ができたらメンバーは挙手する。リーダーにアピールするあたり、挙手して体現するところが何とも学校らしい。

 

しかし、全員の挙手が完了するまでには多少の時間を要することになった。受講生が操作慣れしていないこともあるが、講師の思い込み違いで全員が揃うまでに次の操作をしてしまっていたのだ。実技1回目ゆえに起きてしまった問題であろう。全員の挙手が完了するまで次の操作を行わないことが統一された。このあたりのスピード感は少人数受講かつ、5回の実技を同じメンバーで受講できるゆえの恩恵であろう。

 

仮に1単元の講習会だとしたら、講師一人に対して受講生が10~15名程居て講師がひとつの操作を一人ひとりに教え、確認に回るであろうし、時間的なロスも多くなるだろうが、山スキー学校11期は受講生6名に対し、6名の講師が居てマンツーマンで見ていただける手厚い環境が整備されていた。

 

全員がリーダーの電波の受信を確認し、次に発信に切り替える。リーダーは一人離れた所へ移動し受信へ切り替える。メンバーに合図を送り、メンバーが縦一列に等間隔を維持してリーダーの前を通過する。

リーダーはビーコンに正しく接近しているメンバーが確認できればOKだ。全てのメンバーの確認ができたら、ようやく雪山へのフィールドが開かれる。

 

実に合理的な所作だが、ひとつ気になることがあった。一般的にはリーダーは先頭を歩く。このリーダーが上記のような所作を終えた時、最後尾に位置していることになる。リーダーが先頭まで進んでその間に全体的な進捗が滞ることになることになる。多少であれ時間にロスが生じることを考えるとサブリーダーがビーコンチェックを指揮し、一連の所作を終えたのち、最後尾につく方が自然の流れのように思えるのだが。

 

平坦な雪面では出来る限り板を滑らせた方が距離を稼ぐことができる。これはスノーシューで歩くよりも早く進めるし浮力もあって機能的だ。ゲレンデで深雪を進もうとすると板は沈み思うように進めないものだが、シールを付けた板はテールを軽く浮かせてやるとシールが機能し、十分な程の浮力を得られる。

 

500m程進んだであろうか。比較的平坦な場所で埋没の捜索訓練を開始する。2人1組で同じビーコンを持つ者同士がペアとなり、講師から提供されたビーコンを埋めて探し出す。ビーコンで3m以内に範囲を絞ることは容易だが、そこから先がどうもうまくいかない。ビーコンが縦に埋まっているか、横に埋まっているか等によって、例え近くにあっても、電波を受信する側は無意識的に固定観念に捉われ、〝だいたいこの辺りだろう”という気持ちでプローブに持ち替えてしまいたくなるのだ。焦りや目的を早期に達成したい心理的な側面を顕著に表しているようだ。

 

ビーコンの技術や操作方法については割愛するものの、捜索する側の時に埋められていた場所よりも90㎝程深い同一の場所に埋めて反応を見させてもらったが、前者に記述したような思い込みのせいもあってか、なかなか見つけ出せないでいた。範囲を絞り込めたとしても、無作為にプローブを雪面に刺していてはヒットしない。一定の間隔で渦巻きを描くように徐々に広げていくことが大切だと分かった。

 

次に受講生6名がツアー中に雪崩現場に遭遇し、捜索を行うという訓練を行う。ここでは各自がリーダーとなる。リーダーは被害者の仲間の一人から状況をヒアリングし、雪崩斜面の状況から、雪崩が再発生し捜索するメンバーが2次災害が発生することも考慮し、メンバーに指示を出す。

何名のパーティーか、他にパーティーが居たか。男性、女性何名か。消失点はどこか。

ビーコンの装着はいていたか。ヒアリング相手のビーコンを解除させる。

体調は大丈夫か。

 

ビーコン、プローブ、スコップで発掘する係をそれぞれ割り当て、雪崩発生時の退避場所も決めて現地へ急行する。リーダーは捜索にあたるよりも、冷静に判断することに徹することが好ましい。リーダーを務めた時、消失点を確認したり、ビーコンの装着の有無の確認や会話のできる被害者のビーコンの発信を解除するなどの漏れが生じた。訓練とはいえ、助けようとする気持ちが全面に出てしまうと冷静さを失い、捜索する側に入って行ってしまう悪いところがでた。捜索側にいる時には他人の行動や自分の行動にも比較的冷静でリーダーの意見を聞きながら行動できたり、メンバーと会話して情報共有したりできるのに指示する側ではどうもうまくいかない。もちろん1回きりの練習だったし、反復練習を行わないことにはうまくいかないものえあろうが6人中5番目にリーダー役をやらせてもらって、その結果が記載の通りでは不甲斐無いのにも程があった。

 

 

実技2@栂池高原上部 早稲田小屋周辺

 

この冬一番の寒気が前夜から流れ込み志賀高原では氷点下20度を記憶した朝。8時朝食、9時出発とゲレンデまで徒歩0分の民宿らしいスタートとなった。食事に30分を見積もれば、食後30分で身支度を整えなければならず自分にとっては、忙しない。やはり45分は欲しいというのが本音だが、団体行動だし、すぐに行動に移れるようにする習慣づけも大切な要素である。

 

9時、チケットを貰って、ゴンドラに乗り上部へ。スキー場の広い斜面は緩すぎて全く魅力に感じない。だからこそ、上部への期待が膨らんでしまう。降車して板にシールを貼る。まだ慣れないシール貼り。貼っては生じる微妙な隙間は今後練習あるのみだ。ビンディングをWALKモードにしてブーツを装着。ようやくスタートだ。パーティーは山スキー学校以外に日本雪崩ネットワークの単科講習生が30名程居た。それぞれ距離をおいてビーコンのチェックを開始する。ここはゲレンデの上部。ほとんどがゲレンデスキーヤーやボーダーでビーコンを持っている人は少ないが、時折単独行の山スキーヤーが接近してきて余計な電波を受信してしまうらしく、思うようにチェックができない。

 

やむを得ず、100m程移動して、再度チェックを行う。結局、登高開始は10時過ぎになってしまった。なかなかスケジュールの通りにはいかないものである。登高を開始する。新雪は35cm程あったであろうか。歩きやすい積雪量だ。方向転換の為のキックターンが難しい。他の受講生はうまくできているが、どうもうまくできない。遅れをとるわけにもいかないので、腕力と下半身のバネで反転して登っていく。

 

登ること10分ちょっとで車道に出る。(無論車道といっても、平坦な所というだけで、2m近く積雪があるのだが)150m程進んだ所で斜面の特徴を解説していただき、一人ずつ十分な間隔をとって、通過することになった。これをスペーシングという。斜面一帯は針葉樹でツリーの間隔も程良く下部をみるとそこそこの大きな木々が生えているのだが、上部を見ると一部に木はあるものの限定的であり、木のない所は車道の下部にわたっても植生がされていないことが確認できた。ここは雪崩斜面である。ゲレンデから約30分で雪崩斜面に出くわすなど想像していなかったが、人工物であるスキー場から自然界にたどり着いたことを意味しているだけでなく、危険度も高まっていることを理解した。

 

講師を先頭に安全が担保できると思われるところまで進み、合図を出す。受講生の先頭が続く。その間、その他のメンバーは一人に注視する。何故このようなことを行うのかというと、過去に雪崩が発生した斜面では今後も雪崩発生する可能性が極めて高く、その斜面を横切ることは巻き込まれる可能性を十分に秘めており、仮に雪崩が発生した場合の犠牲を最小限に留め、また多くのメンバーの監視下におくことで救助できる可能性を高める役割を担っている。また通過者が留意しなければならないこととして特筆すべきは、ザック留め具を外す、ストックをフリーにする、スキーとブーツを繋いでいる流れ止め(リーシュ)を外すことである。その他にも斜面の状況をよく観察しながら、出来る限り素早く通過することも非常に重要である。これらによって、他者から消失点が確認できる可能性が広がり、遺留品よりも低い斜面、もしくは下部に埋没しているだろうと推測が容易になり、捜索におれる一助となるからである。全員が通過するまでに10分以上の時間を要したが、ここは十分に時間を費やすべきである、疎かにしてはならないことを理解した。

 

早稲田小屋下部、成城大小屋へ向かう途中の手頃な斜面を選びコンプレッションテスト(CT)を行うべく斜面を掘る。ただ掘り進めようにも連日の雪でいくら掘ってもすぐに掘りにくくなってしまう。自分の近くに雪を捨ててしまうと大量の雪で足元を奪われ、自滅する。むやみやたら奥から掻き進めるのではなく、足元の雪をしっかりと掘り進め、将来にわたって支障のない場所まで捨てにいくことができるよう計画的に作業を行わないとただ体力を消耗してしまうだけになってしまうのだ。

 

私たちの目的は山スキーであり、登高や滑降は体力を消耗し汗もかく。体が熱くなることもあれば、寒くなるときもある。だからこそ、CTでは自分の体調に合わせて、先々のことを考え、掘り進めることが大切である。そしてできる限り、省エネで楽ができ、体力を温存していくことが必要なのだ。ザックを下す、背中から熱が奪われ安くなる。体は冷える。

行動食を摂取する、エネルギーを取り込める。体は熱を持つ。休憩が取りやすいタイミングは即ち体調に変化をもたらす時である。スコップを持ち、掘る作業、雪を捨てる作業などは1日に何度も行うような動作ではなく、体に瞬間的に負荷をもたらす。それが肩、腕、腰に与える影響度は計り知れない。滑降していった先で何が起きるのか、見えないリスクに対し体力を温存し、将来に備えておくことは相対的にも有効であろう。よって、無駄に体力を消耗するような雪の捨て方は避けるべきであり、力が余っているからといって、行うべき行為ではないのだ。

 

講習中「足元の雪もしっかり捨てることが大切だ」との指摘もあり、後になって記録をまとめていく過程でもそれは合理的な捨て方、掘り進め方だと分かった。考える登山、考える山スキー、これは自分が目指すリスクマネジメントの最重要であり、ただやみくもに楽しむことは意味がない。結果、楽しく過ごせることはたくさんあるかもしれないがもっと過程を大事にしたい。その点においては、掘り進め方は来期に持ち越しの課題となった。

 

さて、主のCTであるが雪柱を作って叩いてみると、7回ほどで破断する層が見られ、20回を超えた所で表層が崩れるような現象だったと記憶している。点発生の表層雪崩がもしかすると発生するかもしれないという考察に至った。テキストの内容も加えるとすればルーペで結晶を確認できる乾雪だった。以上の結果から安全であろうと定義づけた。

 

その後、ハンドテストも実施した。ハンドテスト各層の高さを自ら触れて判断できる有力な手段だ。目視では把握しにくい層全体を指が一定の力でどの程度まで入るのかどれだけ力を加えて側面に指が入るのかが分かる。このテストによって、層の高さまでがざらめ雪であるか締まっているかなど層の特性を理解することにより、どのような雪崩がどの層から発生することのできる一助となる。

 

講師である先生方からは電流を流して確認するルッチブロックコードという方法も披露して貰ったが、経験のない私たちが行うまでには知識も技術も経験に裏打ちされた判断力もないので、実践的ではなくあくまでもご参考程度となった。他方でスキーを履いたまま行えるジャンプテストや複数でジャンプして状況確認ができるスクラムジャンプテストなどは自分たちが行うことのできるであろう内容を思われたが、実施されずに終わった。”自立したスキーヤー”を育てるには前者を見て学ぶより、後者を実践することで理解するほうが良かったのではないかと思うし、その後の講習会でも披露されなかったことは残念だった。

 

その後もルーペで結晶を観察、シャベルテストや各層の温度を見て状態を確認するなど、理論に基づいた内容となった。12時前後までみっちり行ったが、気温も下がり始め動かずじっとしている時間も多くなり、体力は低下、指先の感覚が次第に失われ、震えが出てきた。経度ながら、低体温症の初期症状が出始める。すかさず暖かい飲み物を飲み、エネルギーとなる行動食を摂取する。しかし、いくら食べても飲んでも体力が回復しない。士気が低下し、内心講習会どころではなくなった。体が熱量を生産しない脱力したような状態。これは特に厳冬期の雪山では危険だということを肌で感じることができた。

 

CTの講習が終わり、場所を移動して埋没捜索へ向かう。5分もしないうちに体が熱を生み出し、指先の感覚が戻り、震えも消えた。加速度的に体力が回復していく様子がわかる。

心臓の鼓動を感じながら、血液が循環し、筋肉に伝わり、肌から汗となってじわっとくる一連のはたらきなのであろう。

 

埋没捜索、搬送訓練の制限時間は15分。ビーコンにて範囲の絞り込みにあたる。雪崩斜面に自分たちのパーティーが乗り込んだ形が想定された。このようなケースでは自分の役割はビーコン捜索が良い気がした。

・マムートのビーコンは他者のビーコンよりも捜索が容易。

・ほかのメンバーよりも自分が若いこともあって、初動が早く現場へ行く時間が短縮できる。

・プローブで被害者を確定してもらえればスコップを準備して掘り出しまでの時間がかからない。

・体力がある。

 

範囲の特定までには3分を要した。ビーコンの範囲は2mを下回ることがなかったからだ。今までは1m以内に絞り込んでいたが、今回はそれができなかった。つまり、深いところに埋まっていると予想された。プローブ班に後退に付近の足元を掘削し、整備する。ヒットした。頭部へ外傷を与えないように細心の注意を払い、頭部付近は手掘り。搬出するために被害者の奥に2人が並んで入れる空間も確保しつつ、声掛けをしながら、励ます。もちろん相手は人形なので反応はないのだが、真剣に誰一人手を抜くことなく、搬送まで行って13分。これは前夜の反省会が良かったのだろう。達成感と制限時間内救助成功に安どしたのはメンバーだけではなかったはずだ。

 

最後は深雪ツリーランを100m程行った。なかなか前傾滑降できない課題がわかった。そしてゲレンデで動画撮影を行って終了した。